物理と数学

物理が苦手な高校生は多いように思う。自分も高校生の頃はとても苦手だった。
逆に、浪人生は得意な人が少し多いのではないだろうか。これにはもちろん理由がある。

高校の物理に、高校の数学が追いついてないからだ。

というのも、大学で物理を学べばわかるのだが、物理の基本はベクトルと微分積分である。
これを高校の数学で学ぶのは、ベクトルが数学Bで二年生、微積分は数学3で三年生だ。
普通2年生から物理を学び始める高校生にとって、まず習ってない数学を使って物理が表現されているのだ。
できないし、苦手意識を持つのは当然である。
1年生から物理をやる人は、さらに三角関数も習ってないので、余計に分からないだろう。
数学という道具を使って、物理を学ぶのに、道具の使い方も、道具そのものも知らない状態で学ぼうという方が無理な話だ。

「あー、自分は物理苦手なんだよなー。何やってんだかさっぱりわかんねぇ」

と思っている人には、

「それは、高校の物理が何故か本質を外した教え方をしているから、仕方ない」

と答えるしかないのが、悲しい現状なのだ。
以下、数学と物理の関係性を単元ごとに紹介する。

物理とベクトル

まず、どの教科書にも一番最初に載っている力学。矢印が色々書いてある図が載っていると思う。
これがベクトルなのだが、習ってないorまだ十分に理解していない段階でベクトルを「使って」物理を理解することはとても難しいと思う。
しかし、力学では力の「大きさ」だけでなく、「向き」が大切になるので、どうしてもベクトルの考え方は外せない。
二年生の最初で力学が分からない、という人は、一度数学に集中して、夏休みなどにもう一度力学をやり直すと、以前よりは理解しやすくなっているはずだ。

電磁場中の荷電粒子の運動や、円電流の作る磁場の問題では、高校の範囲外なのだが、ベクトルの外積がとても役に立つ。
予備校によっては、数学や物理で教わるはずだ。
参考書でも、載っているものもあるにはあるが、こればかりは予備校で学ぶことをお勧めする。

そして、ベクトルが分からずに物理が嫌いになりそうな人は、まずベクトルの入門書をやってほしい。
具体的には、

決定版 志田晶の ベクトルが面白いほどわかる本 (数学が面白いほどわかるシリーズ)

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ベクトル<平面図形>が本当によくわかる本 (細野真宏の数学が よくわかる本)

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スバラシク面白いと評判の初めから始める数学II・B (Part1)

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これらの辺りから分かりやすいものを選んでやって、それからまた物理に戻ってみるといいだろう。

物理と微積

一応、高校の物理は微積分を使わずとも問題は解けるように設定されているが、物理を専門に学ぶ身としては微積分を使えばすぐに求まるような式を「公式」と称して暗記すべき事項を余計に増やしているだけのように思える。
高校物理での微積分の使用は賛否両論あるのはわかるが、難関大の問題を見ると時折明らかに微積分を意識した微小変化の問題が出ることを考慮すると、微積を使うことを知っていて損はない。
高校の課程まででよくありがちな、ここは教えてはいけない、といった姿勢は学ぶ意欲を削ぐ悪しき風習に思える。
そもそもニュートン微積分を使って、力学の体系を作ったのだから、微積分を使うのが王道なのではないか、と個人的には思う。
これは文部科学省の方針なので仕方ないが、「物理が公式を暗記して適当にいじれば答えが出る」科目と認識されると、こちらとしては心外だ。
物理で出る答えには全て単位があり、物理的な意味がある、ということを実感するためには、微積分の考え方はとても有用なのだ。

そうは言うものの、初学者に微積分を使った物理をわかりやすく説明した参考書はあまりない。
ここは素直に予備校に通うか、微積分を使う参考書を読みこなすだけの実力をつけるしかない。
だが、微積分で各現象を表すことができると理解できたとき、今まで公式の羅列だった物理という科目が一気に一筋に繋がることだろう。
そういう意味で、物理は予備校に通ってでも習うべき科目である。

大学受験の参考書で思い切り微積分を使った物理の参考書といえば、これだ。

新・物理入門 (駿台受験シリーズ)

新・物理入門 (駿台受験シリーズ)

難しい本であり、大学の学部1年の物理はカバーできてしまうくらいの内容だ。であるがゆえに、かなり本質的な内容で、先生の授業の板書はこの参考書にかなり近い。
数学をしっかり学んだ人でなければ、初学者は手を出さない方がいい。
だが、理工学部に合格して物理を専門にする人は、大学に合格したあとでもいいので、いわゆる「受験物理」との違いをこれを読んで理解してもらいたい。

余談ではあるが、たまに大学の物理学科には高校の物理を全く知らずに入学してくる人がいる。
そういう人でも、微積分とベクトルと行列を学べば、ちゃんと大学の物理を学んで卒業できているので、やはり数学を知らないがために物理が理解しにくいものになっているように思える。

食わず嫌いは禁物

難しいからといって、避けていたらいつまでもできるようにはならない。
たしかに、物理は入り口が難しい。というより、無意味に難しくされていると言ってもいいだろう。
それは、あなたが頭が悪いからとか、物理に向いていないから、というわけではない。物理を学ぶための道具を知らず、使えないだけなのだ。
上で述べたように、大学受験で使う物理は本質から少し外れているし、それですら最初に物理を学ぶ段階では数学が足りていない。
今、物理が嫌いで逃げている理系の人は、数学をしっかり学んで、もう一度挑戦してもらいたい。
そうすれば、いかに数学を「使う」か、ということが見え、物理も数学も面白くなるだろう。

ちなみにここまで読めば分かったと思うが、浪人生が現役生よりも物理が得意なのは、そういうことだ。
高校の数学を一度全部学んで、もう一度物理を勉強し直しているから、頭に入ってきやすいのだ。